FUTURE CITY FUTURE NIGHT

スマートイルミネーション横浜

© Smart Illumination Yokohama executive committee

【レポート – 3 】スマートイルミネーション・サミット2019 パネルディスカッション

TYPE: TALK

CATEGORY: Smart Illumination Summit

2019年11月2日、横浜・象の鼻テラスにて、スマートイルミネーション横浜のネクストステップを模索する「スマートイルミネーション・サミット2019」を開催しました。
第二部は、スマートイルミネーション横浜アートディレクターの岡田勉と、スマートイルミネーション横浜実行委員会委員長の信時正人によるプレゼンテーション、チーフプランナー・守屋慎一郎の進行によるゲストとのディスカッションを実施しました。

Smart Illumination Summit 2019 invited guest speakers from creative cities around the world to search for the next steps in the Smart Illumination project.
The second part of the summit featured presentations by Smart Illumination Yokohama’s art director, Tsutomu Okada, and Masato Nobutoki, the chair of the Executive Committee, followed by a panel discussion led by Smart Illumination Yokohama’s chief planner, Shinichiro Moriya.


English is here


■テーマ
「 都市とアートの相互作用 ーSDGs時代の創造都市ー 」

■プログラム
【第2部|パネルディスカッション】

■登壇者
・イグナティウス・ヘルマワン・タンジル(LeBoye design/Dia.Lo.Gue artspaceファウンダー、クリエイティブ・ディレクター)
・島田智里(ニューヨーク市公園局 都市計画&GISスペシャリスト)
・岡田勉(スマートイルミネーション横浜 アートディレクター)
・信時正人(スマートイルミネーション横浜実行委員会 委員長)
[ファシリテーター]
・守屋慎一郎(スマートイルミネーション横浜チーフプランナー)

※ 招聘の予定をしておりましたリヨン市は、当市の都合により不参加となりました。




岡田:まず、今日皆さんに座っていただいているテーブルですが、アーティストの原倫太郎さんの卓球台の作品です。本日、本当は4都市でサミットを行う予定でしたので、ジャカルタ、ニューヨーク、横浜、そしてもう1カ所にリヨンと書いてあるはずで、4都市の4人で卓球しようというプランがありました(笑)。しかし、リヨンからのゲストは来られなくなってしまいました。原さん、説明をお願いします。

原:今回2台の卓球台を作らせていただきました。一つは木琴のような音がする卓球台で、ボールが落ちた位置によって高低の違う音が鳴ります。もう一つが、サミットのために作った、4都市の輪郭をかたどった板をくっつけたものです。

守屋:今日のサミットでは、卓球の代わりに登壇者のみなさんの言葉のラリーで楽しんでいただければと思います。ここで改めて、この「スマートイルミネーション横浜」がどのようなイベントであるのかについて、簡単に岡田ディレクターから紹介をいただきたいと思います。



岡田:かつてであれば、開発というと埋め立てをしたり橋を架けたりビルを建てたりと、非常に大きなお金とパワーが必要でした。社会が成熟してきたなんて言い方をしますが、公共予算がなくなってくると、クリエイティブで何とかしようという需要が高まります。我々もその流れと共にアートを実社会に応用するということを考えた訳ですが、世界の中で、スペクタクルなアート表現によって都市に変化を与えているような事例をまず調べました。


夜景開発プロジェクト・都橋

その翌年に、我々も横浜の街を舞台にサーチライトとカメラを持ってまち歩きをしてみました。これがそのときの写真ですが、都橋商店街という横浜では有名な、小さなバーが軒を連ねるユニークな風景の場所に、今年も参加していただいているアーティストの髙橋匡太さんがサーチライトを当て光の装飾をし、写真家の森日出夫さんが写真を撮るという夜景開発プロジェクトを行いました。


夜景開発プロジェクト・三井倉庫

三井倉庫という企業が持っている古い倉庫も行いました。観光地でもなく、港の外れにあるのでこの魅力的な建物をほとんどの方が知らなかったのですが、光を当てその景観に着目するということをやりました。アーティストの視点や光がもたらす効果というものは有益であることに気が付いて、2011年からは、光を軸にしたフェスティバルをやろうと決心しました。

ところが、ご承知の通り3.11東日本大震災が発生して、今までの我々の便利な暮らしに疑いを持たざるを得なくなるような事態になりました。2001年のニューヨークもそうだったと思いますが、そんなときに光祭りなんて言っている場合なのかと、市の担当職員とも随分協議をしました。しかし、こういうときだからこそ、みんなで力を合わせるためにぜひやったほうがいいと、光の祭典を行うことにしました。

ただ、昨今の日本が特にそうですが、球数を競うような、キラキラピカピカするイベントではなくて、こういう時代だからこそ意味のあるイルミネーションイベントを作ろうということで、「スマート」という言葉を付けました。いろんな意味が込められていますが、端的にご説明すると、環境技術や省エネ技術とアートの創造性を掛け合わせて新しい夜景を作り出す、あるいはエネルギーや未来の生活について語り合うための場を作ることを趣旨にしたプロジェクトです。ですから、流行りのプロジェクションマッピングのようなことはやりません。横浜の夜景は、水もありますしきれいですが、その様相をアーティストが加わることでどのように変化させられるかということに取り組みました。


スマートイルミネーション横浜2011
《WRAPPING THE CITY LIGHTS –既存都市照明のカラーチェンジ–》髙橋匡太


この写真は、既存の照明にカラーフィルムを貼っただけですが、普段ここを訪れていらっしゃる方にとっては新鮮な風景なんです。


スマートイルミネーション横浜2011
《ひかりの実》髙橋匡太


また、これは髙橋匡太さんの『ひかりの実』というプロジェクトで、果実を育てるために使う紙の袋に子どもたちと共に笑顔を描き、それに光を灯し樹に吊るしたものです。初年度は山下公園で約3,000個を取り付けましたが、それは被災地である岩手県陸前高田市の子どもたちと一緒に描きました。山下公園は関東大震災のがれきを埋めてできた公園で、そういった歴史的な文脈もつなぎ合わせました。



スマートイルミネーション横浜2014
《「ちび火」プロジェクト》小山田 徹


スマートイルミネーションは語り合うためにあるというお話しましたが、実は原始的な光について想いを馳せようということで、焚き火をやったこともあります。ダムタイプというメディアアーティストグループの主要メンバーの一人だった、小山田徹さんによるプロジェクトです。象の鼻パークに焚き火をいくつも用意し、それを囲んで来場する人々とアーティストが語り合うものです。なぜか小さな火を前にすると人の心と涙腺は緩むようで、あらぬ打ち明け話を始めたり、夢見がちなことを話し始めたりするようで、非常にいい作戦だなと思いました。

スマートイルミネーションの自慢の一つは、世界で一番暗いイルミネーションプロジェクトであるということなんです。将来、人工衛星から日本列島を見ると、横浜だけ真っ黒になっているなんて姿を見てみたいと思っています。


守屋:それでは信時委員長からのお話に移ります。信時委員長はもともと、横浜市の温暖化対策統括本部を代表して、SDGs、環境の視点からスマートイルミネーションに参画いただいています。この事業にどういう意義を見出しているのか、簡単に伺いたいと思います。



信時:日本で2008年に低炭素化を目標にした環境モデル都市をえらびました。横浜もそれに指定されました。また、2010年に行われた次世代エネルギー・社会システム実証事業というのは、スマートグリッドを都市にインストールしていこうというものです。2011年の環境未来都市、これは英語ではFuture Cityというのですけど、地球温暖化対策と超高齢化という世界的な都市の二大課題に取り組むということで指定されました。 そして去年、SDGs未来都市としても指定を受けまして、横浜市はめでたくモデル事業都市となりました。 今申し上げた4つ、すべての指定を受けている都市は、日本では横浜と北九州市の2都市だけです。2011年、このスマートイルミネーションが始まった年に、環境未来都市が始まったということなんですね。



この図は都市を三層に分けて考えようと僕が作ったものです。今回のアートや文化は一番上の層ですね。その下に赤で書いているのは社会的、人工的なインフラストラクチャーで、ここにエネルギーや上下水道、ごみ、それから医療・介護などのソフトとしてのインフラも入ります。さらに最近、最も注目され始めたのは、その下の自然のインフラストラクチャーですね。水や緑や大気、地層、もう一度ここから都市を見直そうと。オレンジの矢印は、ICTです。すべての層に関わります。更にピンクの楕円はオープンデータ、という意識をもってその姿勢で都市を運営していくべき、という都市施策を表しています。




これを実現するために、環境未来都市として5つの事業の柱を立てました。地球温暖化対策と少子高齢化対策にはどの都市も課題として取り組むことになっていて、それ以外は、それぞれの都市で特徴的な課題・目標を選ぶという事になっています。下の2つ、特に文化芸術をテーマに挙げたのは当時、横浜市だけだったんですね。横浜市の創造都市としての大きな特徴を伸ばそうということです。

これを発表したときに審査委員の先生から言われたのは、「5つに絞ったのはいいけれど、横ぐしを刺さないとそれはそれで縦割りになってしまう」ということでした。そんな事業はないのか?と聞かれ、そこで私は、実はこのスマートイルミネーション事業こそがその代表的な事業であると発言しました。スマートイルミネーションなら、この5つの課題をクリアしていけるのではないかと説明しました。




昨年、SDGs未来都市になった後、横浜市は共同事業者(神奈川新聞社、凸版印刷、エックス都市研究所、テレビ神奈川、tvk コミュニケーションズ)を選定し、それらが中心になって、ヨコハマSDGsデザインセンターを設立しました。私は、ここのセンター長もしていますが、SDGsで新しい社会デザインを作っていこうということでありまして、企業や大学、市民の方々などのステークホルダーが持ってきたニーズやシーズに対して、マーケティング、コーディネート、企画立案、イノベーションの提案をして、最終的には事業実施を目標に動いています。

SDGsのことについては皆が知っている目標ごとのアイコンがあるし、何だか楽しそうなので皆さん注目もしているのですが、このマーク“久しぶり”のインターナショナルなコミュニケーションデザインだと思いますが、一方、パリ協定のことは皆さんあんまり話さないんですね。パリ協定は、脱炭素の世界にしていこうということで、皆さん厳しいとしか言わないんです。でも、この2つがこれからの世界の両輪なんです。そろわないとだめなんですね。僕らの世代の生きてきた時代は、エネルギーをどんどん使ってCO2をガンガン出して、電気をガンガン使ってきましたが、これからはエネルギーを使わない、あるいは使っても再生可能エネルギーにしようという時代に、SDGsはQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げよう、社会を維持しようということなので、今まで経験したことのないことを我々は目指そうとしているんです。そのことを認識した上で、できることを考えていかなければいけないということですね。

環境モデル都市、スマートグリッド実証実験都市、環境未来都市と種々の“準備運動”をしてきた横浜市が、SDGs未来都市へ 、大量生産・大量消費・大量廃棄が豊かさの象徴であった時代から21世紀の新しい豊かさを求めていく時代に来ています。その中でスマートイルミネーションの価値を改めて考えると、環境と経済と社会の3つの課題へのアプローチ、脱酸素を目指しながらの新しい豊かさへのアプローチ、さらに当然ながらクリエイティブシティの今までの歴史も含めたアプローチができます。横浜の新しい技術は、展示会などではなく、アートで最初に発表すると良いのではないかと思っています。スマートイルミネーションはその象徴となるイベントです。そして、楽しみ、憩い、コミュニケーション、新しい技術のクリエーション、人材育成、都市全体の価値向上、消費型からの脱却につながっていくんですね。展示を回っていただいた方には分かると思いますが、観て楽しむだけではなく、作った方とのコミュニケーションもあるんですよね。

SDGsの17のゴール、このどこから入っていくかというのは各自違うと思いますが、全部やっていれば次につながるということではないんです。どこの自治体も色々な取り組みをやっていますが、それをどうストーリー化していくかが重要なんです。このスマートイルミネーションに関しては、産業と技術の革新というところから入り、それからエネルギーの問題、平等性へと、そういう形で広げていく、深めていくということができればと思います。



【ディスカッション】


岡田:島田さんに伺いたいことはたくさんありますが、なぜニューヨークで役人をやっているのかまずはお聞きしたいと思いました。

島田:私が環境、緑に興味を持ったのは、やはり京都で育っているからです。最初はオーソドックスな形で森林学、環境学というのを勉強しましたが、そういったサイエンス側からではなく、私は自分が住む環境の緑が好きだと気が付いたときに、じゃあまちづくりだなと。それで、京都から中途半端に大阪に出るくらいだったら思い切って外に行ってしまおう、大きな街に行こうと思ったのがニューヨークに来るきっかけでした。

海外に長く住む中で、今日本でみなさんのように活躍されている方を外からサポートしたいと思いだしました。外からの情報発信や意見交換を担うことで、今私がニューヨークでやっていることが日本の何かに役立てばいいし、逆に日本人として海外に出ている私が日本から学んだものを海外に紹介できたらと考えています。

将来は、これからどういう風に社会が変わっていくかによっておそらく私の考え方もどんどん変わっていくと思いますが、自分も楽しみながらできることを続けていきたいです。





岡田:ニューヨークの好きなところはどこですか?

島田:空間か、社会的なものかどちらでもいいですか?ニューヨークの良いところは、失敗を恐れなくなってきたところです。ニューヨークはやはり色々なことに直面してきた経験があり、失敗を繰り返して学んでいくことが多いので、それを許容してくれる社会が既にあるんです。だからいろんなことをどんどん体験できる、例えば私のような外国人が行政で働くこともできる。そういう風に、頑張れば可能性があるというところがやはりニューヨークの魅力だと思います。

私は、タンジルさんのお話の中にあった、民間の手でアートを広げていこうという考え方は非常に素晴らしいと思いますが、ニューヨークのようにそういった文化が既にあるところと比べると始まり方が違うと思います。

ニューヨークの人は自分の家の庭感覚で公共空間を使っているので、特別なところに行くという感覚があまりないんですね。まるで自分の心の中にオーナーシップがあるようです。それだからこそ手入れ、管理などにも市民参加というのが自然に発生してくるのが文化の違いなのかなと感じます。

ジャカルタでは皆さん、公共空間をどのように感じているのでしょう。市民の方がどのように意識されているのかが気になります。





タンジル:ジャカルタは先程申し上げた通り、公共空間があまり多くはありません。公園も少なく、遊べるところというのがないんです。そういうところに意識を向けるには、経験や教育が不足していると思います。もちろん、若い世代の人たちは変わってきていて、昔はシンガポールや香港、日本に行ってブランドの服を買うというようなことが贅沢の表れでしたが、今の若い人たちは他の国の小さな街や、自然の多い村に行きたがるようになってきたのです。ソーシャルメディアには悪い影響もありますが、良い影響としては、若い世代がこういったものを追求し始めていることがあります。

私は友人たちと、ビンタロ地区をコペンハーゲンのようにするという夢があります。コペンハーゲンは街自体が美しく、ショップもすべて美しい。デザイン的思考が根付いていて、すべてにそれが組み込まれている。お金をかけなくても、小さなことから始めていくことでいつか政府にも理解されて、支援を得られればいいなという風に考えています。

守屋:タンジルさんから教育というお話がありましたが、公共空間の価値、デザインやアートが持っている価値について、信時委員長は教育という点で何か考えていらっしゃることはありますか。

信時:横浜市民の方々は、公共的なこと、例えば温暖化対策などについて考えている人は、NPOの数などを見ても他都市と比べて比較的多いような気がします。

僕は今、ブルーカーボンという海のことにも取り組んでいます。海も公共空間ですが、市民の人たちが海に直接アクセスできるのは、横浜市140キロメートルの海岸線の中で1.4キロメートル、たった百分の一です。後はみんな堤防や埋め立て地になっていて、港湾地域や漁港地区と指定されています。公共地域、公共区域イコール管理されているということです。海外だったら港湾地域でも泳げますが、目の前の海で泳げない、目の前の海のものを採って食べる経験もできないといったことが日本では起きています。そこになんとか風穴を空けていきたいと思っています。その辺の現場に即した事実の教育と、そのきっかけとしてのアートやその先にある、種々のハードやソフトや社会のデザインを目指していきたいです。





守屋:僕たちはアートを手法として普段できないことをやるということを得意としています。たとえば先ほど岡田が紹介した焚き火なんかも、普段は絶対できないんです。アートというのは、あくまでもアーティスト個人の興味や関心に基づいてやるものでもあると思いますが、アートが得意とすることは何なのか、岡田ディレクターに聞いてみたいと思います。

岡田:横浜では公共空間の規制緩和はもう旺盛に始まっています。税収が伸び悩む中、足元を見れば公共空間だらけなので、その言わば資源をもっと活用しながら、収益を上げる装置として用いてみようということかなと思います。それと同じように、アートやクリエイティビティが持っている共有財産についても価値化が叶うはずなので、公共空間とそれらをかけ合わせれば、利益に置き換えが可能なんじゃないかと思っています。その実験を、スマートイルミネーション横浜もそうですし、ほかの事業でも日々やっているということです。







文: 齊藤真菜
写真:川島彩水

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