FUTURE CITY FUTURE NIGHT

スマートイルミネーション横浜

© Smart Illumination Yokohama executive committee

【レポート – 2 】島田智里 氏 プレゼンテーション

TYPE: TALK

CATEGORY: Smart Illumination Summit

2019年11月2日、横浜・象の鼻テラスにて、スマートイルミネーション横浜のネクストステップを模索する「スマートイルミネーション・サミット2019」を開催しました。
第一部の参加都市プレゼンテーション2人目は、2009年からニューヨーク市公園局に勤務し、さまざまな地域開発プロジェクトに携わってきた島田智里氏。芸術文化も含め、ニューヨークの公共空間活用に関する取り組みを紹介いただきました。

Smart Illumination Summit 2019 invited guest speakers from creative cities around the world to search for the next steps in the Smart Illumination project.
The summit’s second presentation from a participating city was by Chisato Shimada, who has worked for the Parks and Recreation in New York City since 2009 and has been involved with various community development projects. She introduced initiatives related to the use of public space as well as art and culture in New York City.


English is here


■テーマ
「 都市とアートの相互作用 ーSDGs時代の創造都市ー 」

■プログラム
【第1部|参加都市プレゼンテーション】
登壇者:島田智里(ニューヨーク市公園局 都市計画&GISスペシャリスト / アメリカ ニューヨーク市)



ご紹介いただいたように、ニューヨーク市公園局で都市計画と地理情報システム、簡単に言えばまちづくりと地図のお仕事を担当しています。今日は私が所属する公園局の環境に優しいまちづくりの取り組みを紹介したいと思います。

ニューヨーク市の人口は低く見積もって約850万人と言われています。横浜が374万人と聞いているので、その倍ぐらいと見ていただいて良いと思います。人口が増加中で、住宅不足という日本とは逆の問題があります。陸地面積も約800平方キロメートルで、だいたい横浜の倍ぐらいと見ていただけたらと思います。

ニューヨークと聞くとコンクリートジャングルのイメージがあるかもしれませんが、実は市内の40パーセントは緑やレクリエーションエリアで、豊かな公共空間があります。人種のるつぼで、約37パーセントが外国生まれで、170の言語が話されています。私もそのうちの一人です。

私が所属する公園局は、市の陸地面積約800平方キロメートルのうち14パーセント(東京ドーム約2,500倍)を管轄しており、公園は2,500くらいですが、プールやビーチ、アスレチックフィールドといったものも入れると全部で5,000以上の管轄地、それから市の約30パーセントの海岸を管理しています。


ニューヨーク市は、2007年にマイケル・ブルームバーグ前市長が、老朽化するインフラ、そして気候変動に対応して、持続可能で健康な社会をつくるための長期環境計画プラン『PlaNYC』を立てました。簡単に言えば、ランダムに対策を打っていくよりも、現状況を理解してそれに基づく実現可能なゴールを立てましょうというものです。2030年までのゴールに、「住宅と地域性」「公園と公共空間」「ブラウンフィールド(※土壌汚染、またはその恐れがあるためにその土地がもつ潜在的価値よりも低いか、未利用になっている土地)」「水路」「水供給」「交通」「エネルギー」「大気質」「固形廃棄物」「気候変動」という10個の項目を挙げており、公園および公共空間も入っています。

市長が変わり2015年4月には、PlaNMYCは『OneNYC』に改名され2050年までの新しいゴールを追加しました。PlaNYCを基に「育ち、繁栄するまち」「平等で公正なまち」「持続可能なまち」「災害に強いまち」という4つのビジョンを確立して、一定期間ごとに実際どれくらい目標が達成できているのかを見直します。

SDGs(持続可能な国際目標)は2015年の9月に発表されました。OneNYCの4つのビジョンはSDGsの17項目をほぼカバーしています。

では公園局ではいったいどういうことをしているかというと、2014年からCommunity Parks Initiatives(CPI)というプロジェクトを実施しています。簡単に言うと、良いコミュニティをつくるためには格差をなくさなければいけないということで、人口密度が高く、低所得者が多く、特に過去に設備投資がされていない公園を集中して改善を目指します。これまで5年間で114カ所をリノベーションしているところです。

ニューヨーク市は移民が多いので、地域によって人口密度や貧富の差というのがやはり大きいんですね。そうすると、必需的に地域ごとに優先して対応しないといけないものが異なってくるけれど、公園に関しては差をつくらないようにしましょうという取り組みです。


本当に使ってもらうものを作るには、設計するときに使う人がチームに積極的に参加するべきであるということで、設計前から市民参加を呼びかけるという新しい方法をとっています。周辺環境と調和することや、誰も取り残されないユニバーサルなデザインも掲げています。

2019年までに支援金を含め設備投資に計約320億円、維持管理費に毎年2億8,000万円という非常に大きな資金が提供されていますが、グリーンインフラ(GI)というプログラムからも資金補助を得ています。

グリーンインフラは、下水道などを扱うニューヨーク市環境保護局が先導する市の共同プログラムで、公園局も協力しています。ヨーロッパではグリーンインフラというと、エコシステム、生態系にフォーカスしたものですが、アメリカでは水資源を守ることを目的とします。日本でも台風や集中豪雨で、水害がありますよね。普段は排水溝に流れて浄化処理されている雨水や家庭排水が、一定量を超えると汚染された水のまま表面層に出てきてしまう。これから税金が足りなくなる世の中で、それらに対応していくために緑のインフラを使いましょうというものです。これまでコンクリート詰めの地表面のところに緑化スペースを代用することによって水の浸透を緩めるなど、工夫したランドスケープを導入するシステムです。

公園をリノベーションし、近郊でGIを導入するんだったら、お金も資源も共有し出し合いながらSDGs(OneNYC)の共通ゴールを目指して最大の効果を引き出そうと、GIとCPIを組み合わせて取り組んでいるんですね。実際にこれにより、例えばイーストハーレムというユニークなエリアでは、荒廃していて危ないイメージだった公園が、住民の方たちと協力して大人用の野外ジムやベンチ、トイレ、スポーツエリア、そして貯水できる人工芝も備えた公園に生まれ変わりました。

また、本当に不平等をなくすにはアクセシビリティの向上が必要で、ユニバーサルデザインや五感を使う遊びが、特別な公園でなく普通の児童公園にどんどん取り入れられています。今後誰もが取り残されないまちをつくるためには、未来をつくる子どもの創造性やコミュニケーション能力を育むために、友達をつくる大事な場で、健常者と障害者が分かれてしまい一緒に過ごさない状況は作るべきではないと考えています。

車椅子で一緒に遊べるようなデザインになっていたり、足の不自由な親御さんでも一緒に同じ空間で過ごせるデザインが遊具エリアに施されています。目の見えない子どもでも一緒に遊べる匂いを使った遊びや、巨大レゴ、スポンジのようなもので組み立てたりする能力、触るといろんな音が出るといった体験型の遊びでは感触、嗅覚、バランス能力などこういったものを鍛える役割も果たしています。

『New York City Street Tree Map』というオンラインのサイトでは、10年に1回市民と一緒に行っている街路樹の調査結果を一般公開しています。2015年に2,241人のボランティアに協力いただき、3回目の調査を実施しました。タブレットやクラウドソーシングを使って生データをすぐに入れられるようにしてあり、666,134本(全体の33パーセント)が計測できました。

70以上のの協力団体があり、WholeFoods、ConEdison、NYKnicks、Amazon AT&Tといった大手から540,000ドル以上の寄付も集まりました。ボランティアの皆さんには、のべ1万1,123時間を貢献していただき、税金に換算すると1,000万円ぐらい節約になっています。

一般公開されているのでぜひ見てみていただきたいのですが、マップを徐々に拡大すると、樹木の名前、樹木ID、グーグルマップの写真、環境利益といってこの樹木から得られる生態的利益をお金として換算した数値が表示されます。1本の木で、1年間に可能な雨水コントロールが3ドルくらい、エネルギーの保全に30ドルくらい、大気汚染の除去に1.7ドル、 二酸化炭素の削減に0.12ドルで、計35ドル、日本円にして4千円くらい実は環境効果があるということを数字で可視化しています。
毎日更新されているので現在の段階では2016年よりだいぶ数字も増えましたが、当時66万本のデータが集まって、ニューヨーク市の街路樹から期待できる年間環境経済利益は約71.5億円という数字を示すことができました。緑化の効果がわからない人にも、木って大事だとわかるようにしようというものです。もちろん公園局としてはこれを通常業務で使っているものなんですが、データを一般公開することで更に興味を持ってもらおう、緑への意識を持ってもらおうと市民視点のデザインを取り入れました。


緑が環境に良いという取り組みの続きでは、屋上緑化、コミュニティガーデンがあります。公園局自身では13の管轄所有施設の屋上を緑化していて、一番大きなものはFive Borough Officeで2007年に始めました。最初はコンクリートむき出しだったものを、815坪の巨大な屋上緑地に展開しました。ニューヨーク市で5番目に大きい屋上緑化だといわれているそうです。

コロンビア大学などと共同で、どういった土、砂がいいのか、どういった植生がよく育つのかという研究もしています。ちなみにここでつくった作物は職員に無料で配っているので、8月ぐらいにこれらオフィスの前をうろうろしていると、箱ごとトマトやキュウリをくれます。

また、ニューヨーク市はアートが日常に非常に近いところにあり、公園にも公共アートが多いです。公園局主催のもの、市と民間の共催、市のパートナー団体(NPO)主催のもの、市と州や国の共催のものなど多様な連携で行うプログラムがあります。

『Art in the Parks: UNIQLO Park Expressions Grant』は、2017年から衣料会社のユニクロさんと公園局が共催しているアートコンペです。地元のアーティスト、かつこれから期待される若いアーティストを対象にしたコンペで、10人に1万ドルずつ提供し公園での自由な表現を斡旋しています。

2004年から実施している『Madion Square Park Pubilc Art』は、公園を文化の拠点にしようというNPOによるプロジェクトです。Madision Square Parkに展示される作品は年に数回変わり、今年の12月15日までは、通算38作品目となる彫刻家のレオナルド・ドリューによる屋外アートインスタレーション『City in the Grass』を展示しています。

色々と紹介しましたが、どれも単独ではなくパートナーシップで成り立っている物が多いです。公園局と民間企業、大学、市民の皆さん、みんなでやるから相乗効果があって、少しずつ財源、資源、情報を共有することで非常に大きな効果が出ているのがニューヨークではないかなと思います。


文: 齊藤真菜
写真:川島彩水




【プロフィール】


島田智里

ニューヨーク市公園局 都市計画&GISスペシャリスト

アメリカニューヨーク市在住。京都府立大学農学部で森林学学位取得、ニューヨーク市立ハンター校で都市計画修士号取得。在学中、マンハッタン区長オフィスによる初の都市計画フェローシッププログラムで第一期生に選出され、以来様々な地域開発プロジェクトに携わる。その後ニューヨークの建築会社で勤務し、2009年よりニューヨーク市公園局に勤務、現在に至る。2012年にアメリカ都市計画学会ニューヨーク支部経済開発委員長に就任。

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